EPAの税率を使うために必要な「原産地」の証明
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EPA(経済連携協定)やFTA(自由貿易協定)を利用して輸入する場合、通常の関税率より低い協定税率の適用を受けるには、その貨物が協定の定める「原産品」であることを証明する必要があります。原産品かどうかは、貨物の生産された国や、使われた材料の原産地、どの程度の加工が行われたかといった、原産地規則によって判断されます。この証明は、輸出国側で書類を発給してもらう方法と、事業者自身が申告する方法に大別され、協定ごとに使える方法が異なります。
このため、EPAの活用は、関税率の差だけで判断することが難しく、原産地規則の確認、証明方法の選択、証拠書類の保存といった実務負担を伴います。実務の現場では、HSコード(関税分類)の特定と、原産地規則の判定が、EPA活用の入口と出口にあたる作業です。これらの作業は、部品表や製造工程の情報を読み解く必要があり、専門知識を要するため、自動化への関心が高まっています。
本ページでは、原産地証明の3方式、主要協定ごとの方式の違い、原産地規則の基本的な判定の考え方、HSコードの特定と税関の事前教示制度、AI支援ツールの位置づけを、経済産業省・税関・日本商工会議所などの公的資料に基づいて整理します。個別の貨物についての判断は、税関や通関業者にご確認ください。通関業界の全体像は通関業と保税制度の全体像、DXツールの個別の比較は通関・貿易DXツールの比較表をご覧ください。
原産地証明の3方式:第三者証明・認定輸出者自己証明・自己申告
経済産業省と日本商工会議所の資料によると、日本のEPAにおける原産地証明は、次の三つの方式に整理できます。
- 第三者証明制度:公的機関が原産地証明書を発給する方式です。日本では、日本商工会議所が特定原産地証明書を発給します。税関の「原産地証明手続の一覧(輸出)」では、対象はCPTPP、日EU・EPA、日英EPA、日米貿易協定を除く、締結済みのEPAとされています。
- 認定輸出者自己証明制度:政府から認定を受けた輸出者が、自ら原産地証明を作成する方式です。日スイスEPA、日ペルーEPA、日メキシコEPA、RCEPの4協定で導入されています。認定には、第三者による原産性の確認を受けた実績(第一種証明書の受給実績)が判断材料とされています。
- 自己申告制度:輸出者、生産者、または輸入者が、原産品申告書を作成する方式です。日オーストラリアEPA、CPTPP、日EU・EPA、日英EPA、RCEPで採用されています。日EU・EPA、日英EPA、CPTPPでは自己申告のみが認められ、第一種証明書は使えません。
三つの方式は、事業者の負担と体制の面で性格が異なります。第三者証明は、発給機関に申請して書類を受け取る方式で、社内で原産性を判定する能力が十分でなくても利用しやすい一方、輸出ごとに申請の手間がかかります。認定輸出者自己証明と自己申告は、事業者が自ら原産性を判定して書類を作成する方式で、手続の機動性が高まる反面、判定の根拠を社内に保存し、税関や相手国の確認に備える責任が事業者に生じます。
どの方式が使えるかは協定ごとに決まっており、同じ貨物でも、輸出先や輸入元の国によって方式が変わります。経済産業省は、EPAの概要と原産地規則を説明する資料や、よくある質問のページを公開しています。一次情報として、経済産業省のEPA/FTA(物の輸出入・関税・原産地規則)と、認定輸出者制度のページをご覧ください。
協定別の使い分け:RCEP・CPTPP・日EU・日英EPAなど
主要な協定について、日本商工会議所と経済産業省の公表資料から、利用できる証明方式を整理します。
| 協定 | 第三者証明(日本商工会議所) | 認定輸出者自己証明 | 自己申告 |
|---|---|---|---|
| 日スイスEPA・日ペルーEPA・日メキシコEPA | 利用できる | 導入されている | 採用されていない |
| 日オーストラリアEPA | 利用できる | 導入されていない | 採用されている |
| RCEP協定 | 利用できる | 導入されている | 採用されている(輸出者・生産者による自己申告は、相手国がオーストラリア、ニュージーランド、韓国の場合) |
| CPTPP(TPP11) | 利用できない(自己申告のみ) | 導入されていない | 採用されている |
| 日EU・EPA | 利用できない(自己申告のみ) | 導入されていない | 採用されている |
| 日英EPA | 利用できない(自己申告のみ) | 導入されていない | 採用されている |
出典:経済産業省「認定輸出者制度」「物の輸出入(関税・原産地規則)」、日本商工会議所「EPAとは」、税関「原産地証明手続の一覧(輸出)」(2025年1月現在)。RCEPの自己申告に関する記載は2025年1月時点の公表資料に基づきます。
日本が参加する大型の協定は、CPTPPが2018年12月、日EU・EPAが2019年2月、日英EPAが2021年1月、RCEPが2022年1月に発効しています。協定の数が増えたことで、同じ輸入品でも、複数の協定の税率が候補になる場面が生じています。輸入者は、各協定の税率、原産地規則、必要書類を比較して、どの協定を使うかを選びます。
RCEPは、日本にとって中国、韓国、ASEAN諸国、オーストラリア、ニュージーランドとの関係で関わる大型の協定です。公表資料では、RCEPの輸出者・生産者による自己申告は、相手国がオーストラリア、ニュージーランド、韓国の場合に限られるとされています(2025年1月時点)。RCEPのこのような運用は、改正で変わる場合があるため、最新の取扱いは経済産業省と税関の資料で確認してください。税関は、EPAを利用して日本に輸入する方法を段階別に説明するページや、自己申告制度の手引きも公開しています。
原産地規則の判定:原産品になる条件
原産地規則は、どの貨物がその協定の「原産品」と認められるかを定めたルールです。協定により細部は異なりますが、おおむね次のような考え方で整理されます。
- 完全生産品:その国で全部が生産・採取された産品で、農産物、鉱物、水産物などが該当します。
- 原産材料のみから生産される産品:協定の域内で原産性を有する材料のみから作られた産品です。
- 品目別規則を満たす産品:域外の材料を使っていても、品目ごとに定められた基準を満たせば原産品になります。基準には、使用した非原産材料と完成品の関税分類が一定の水準で変わっていることを求める関税分類変更基準、域内で付加された価値の割合を求める付加価値基準、特定の加工工程を行うことを求める加工工程基準があります。
実務では、完成品と部品のHSコードを特定したうえで、協定の品目別規則と照合し、どの基準で原産品になるかを確認する流れになります。部品表(BOM)に多数の部品がある製品では、部品ごとの原産地と関税分類の確認が必要となり、作業量が大きくなります。この作業を、製造業の社内システムや外部のクラウドサービスで支援する動きが広がっています。
原産地規則の判定は、協定の条文や附属書に基づく専門的な判断です。判定を誤ると、輸入後に税関の事後調査で協定税率の適用を否定される可能性があるため、判定の根拠となる書類(原産地規則の確認表、材料の原産地証明、製造工程の記録など)の保存が重要です。保存の期間や方法は協定ごとに定められています。
HSコードの特定と、税関の事前教示制度
HSコード(関税分類、税番)は、貨物の名称と性質に基づいて、関税率表のどの項目に分類されるかを示す番号です。関税率、EPAの原産地規則、輸入規制の要否など、通関に関わる多くの判断がHSコードを起点にしており、分類が違えば、関税率も必要な手続も変わります。そのため、HSコードの特定は、通関実務のなかでも重要度の高い作業です。
分類に迷う場合の公式な手段が、税関の事前教示制度です。税関のカスタムズ・アンサー1202によると、輸入しようとする貨物について、関税分類、関税率、減免税を税関に照会できます。回答の効力は回答書の発出から3年間とされ、輸入申告の審査の際に尊重されます。ただし、貨物や事実関係が照会時と異なる場合、法令が改正された場合などは効力が及びません。照会は、書面による方法のほか、電子的な方法でも行えます。電話などの口頭の照会は、回答が参考にとどまり、審査で尊重されません。原産地に関する事前教示制度もあり、税関のカスタムズ・アンサー1522で確認できます。
HSコードの特定を支援する手段を、事実項目で整理すると、次の表のとおりです。
| 手段 | 提供元 | 確認できる内容 | 留意点 |
|---|---|---|---|
| 事前教示制度(文書による照会) | 税関 | 関税分類、関税率、減免税、原産地について、照会に対する税関の回答 | 回答書は、発出から3年間、輸入申告の審査で尊重される。提示した事実関係や法令が変わると効力が及ばない |
| AI税番判定サポート | 日本電気株式会社(NEC) | 品目情報の入力に対し、生成AIが税番候補と根拠情報を提示 | 候補の提示であり、最終判断は利用者が行う。本番導入前の無償トライアルあり |
| AI孔明 on IDX for Customs | AIデータ株式会社 | HSコードの分類候補の提示、FTA適用可能性の診断など | 導入効果の数値は想定値。NACCS連携にはカスタマイズが必要。実証導入の募集段階 |
| 特定原産地証明書の発給 | 日本商工会議所 | 第三者証明制度による原産地証明書の発給 | CPTPP・日EU・日英EPA・日米貿易協定を除くEPAが対象。利用できる協定は協定ごとに異なる |
2026年10月時点、各社公式サイト・公開資料に基づく。最新情報は各社サイトで確認してください。事前教示の効力は税関のカスタムズ・アンサー1202、AI関連の機能はNECの公式ページとAIデータ株式会社の発表に基づきます。
これらの手段は、役割が異なります。事前教示制度は、税関が公式に回答する制度で、公式な根拠として扱える一方で、回答までに期間が必要です。AIによる支援は、候補を素早く提示して調査の出発点にするもので、最終的な判断を代替するものではありません。実務では、日常的な分類にはAI支援や社内のデータベースを使い、判断が分かれる品目や新規品目については事前教示を使う、といった使い分けが考えられます。
原産地・関税分類の自動化の現在地
原産地証明とHSコード特定の自動化は、書類の読み取り、分類候補の提示、判定の支援、書類作成の四つの局面で進んでいます。NECの通関プラットフォームは、生成AIを使ったAI-OCRで多様な書類をデータ化し、AI税番判定サポートで税番候補と根拠を提示し、関税計算書システムでNACCSへの申告データを作成・連携します。AIデータ株式会社のAI孔明 on IDX for Customsは、HSコードの分類候補の提示に加えて、FTA適用可能性の診断を機能として挙げています。これらの詳細は通関・貿易DXツールの比較表で整理しています。
一方で、自動化には限界があります。第一に、AIが提示するのは候補や下書きで、最終的な判断と責任は、申告を行う通関業者と荷主にあります。第二に、原産地規則の判定には、製造工程や材料の情報など、事業者の内部情報が必要で、AIが公開情報だけで判断できる範囲には限りがあります。第三に、協定や関税率表は改正されるため、ツールが最新の制度に追従しているかどうかを確認する必要があります。
導入の効果は、情報を整えるところから生まれます。部品表、材料の仕入先と原産地、製造工程の記録、過去の分類の根拠といった情報を、社内で整理して保存しておくと、AIツールを使う場合も、人が判断する場合も、作業の質と速度が安定します。デジタル化は、制度の理解と社内の情報整備を前提にした取り組みです。
実務のステップ:輸入者・輸出者が確認すること
EPAを活用する際の実務は、立場によって確認する内容が変わります。以下は一般的な流れの整理であり、個別の手続は税関と通関業者にご確認ください。
輸入者の場合
- 輸入する貨物のHSコードを特定し、適用できる協定と協定税率を確認します。
- 協定ごとの原産地証明の方式を確認し、輸出者から書類(原産地証明書または原産品申告書など)を受け取る、または自ら申告書を作成する準備をします。
- 輸入申告の際に、協定税率の適用を申告し、必要な書類を提出または保存します。
- 判断が分かれる場合は、事前教示制度の利用を検討します。
輸出者の場合
- 輸出先の国と協定を確認し、使える証明方式(第三者証明、認定輸出者自己証明、自己申告)を確認します。
- 製品の原産性を、協定の原産地規則に基づいて判定し、判定の根拠を保存します。
- 第三者証明を使う場合は、日本商工会議所に特定原産地証明書の発給を申請します。自己証明を使う場合は、認定輸出者の認定を受ける、または原産品申告書を作成します。
通関業者は、これらの実務の一部を荷主に代わって支援します。AEOの認定を受けた通関業者との取引も選択肢になるため、制度はAEO制度のメリットと取得実務で、事業者の比較は主要通関業者・フォワーダーの比較表で確認できます。
まとめ:制度の理解と情報整備が、自動化の前提
原産地証明には、第三者証明、認定輸出者自己証明、自己申告の3方式があり、どの方式が使えるかは協定ごとに異なります。CPTPP、日EU・EPA、日英EPAでは自己申告のみが認められ、RCEPでは3方式が導入されています。HSコードの特定は、関税率と原産地規則の判定の起点であり、迷う場合には税関の事前教示制度が公式な手段です。AIツールは候補や下書きを提示する支援であり、判断は利用者が行います。
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